- 美容師インタビュー | 2018.01.31
お客さまも自分も、リラックスできる雰囲気を【Cache 高野利之さん】
ヘアドレPress編集部の仲西です。
突然ですが、みなさんは自分に似合うものをさっと選ぶことができますか?
わたしは、正直、さっぱりわかりません。
服装、髪型、アクセサリーひとつにしても、似合うかどうか、考えれば考えるほどわからなくなって、つい無難なものばかり身につけてしまいがちです。
美容室に行っても、けっきょく「いつもと同じ感じで……」って言ってしまうんですよね。
「あなたにはこれが似合うよ」と言ってくれるひとがいたら、すごく助かるのになあ、といつも思います。
欲を言えば、「あなたは毎朝ギリギリに起きるから、あんまりセットの必要がなくて、なおかつかわいい髪型にしよう」なんて言ってもらえたら、ほんとうにありがたいなあ、と怠けもののわたしは思います。
今回、お話をうかがったCache堀江・中崎店の高野利之さんは、そういう生活スタイルまで考慮して、似合う髪型を見つけてくれる美容師さんです。
ありのままの自分を見せて、ありのままを見せてもらう。
美容師を志したのはいつごろですか。
高校2年生くらいですね。進路を考えはじめたころです。
ずっと自分で髪を切っていたんですよ。髪を切る感触がすごく好きで。
これで生活していけたらいいなと思ったんですけど、担任の先生には「おまえには向いてない」ってすごく反対されました。
でも親は僕が自分で髪を切っていることを知っていたので、学校に行かせてもらえることになって、兵庫の専門学校を卒業後、20歳で大阪に出て来ました。
就職して今年(2017年)で13年になるんですけど、僕は25歳くらいまでぜんぜん結果が出なかったんです。
結果を出せない時期がすごく長かったので、そのころは迷うこともあったし、向いてないんじゃないかと思うこともありました。
そこを乗り越えたのは、何かきっかけがあったのでしょうか。
店長をさせてもらえたこともありますが、Kansai Hairdressing Awardsのフューチャースター部門(「ヘアメイクのアカデミー賞」と呼ばれる賞で、フューチャースター部門はこの賞にはじめて応募した29歳以下の美容師に授与される)で賞を頂いたことが大きかったと思います。
はじめて受賞というものを経験して、周りのひとに認めてもらえて、それから「ちょっと本気で頑張ろう」と切り替えることができました。
「ここを変えたら美容師として成長できた」というポイントはありますか。
接客スタイルですね。
以前は接客もヘアスタイルの提案も、すごく考えながらやっていたんです。
でも技術に自信がないと、「僕はこんなに頑張っているんだ」っていうのをアピールしたがって、お客さまのまえで仮面を被ってしまうんですよね。
でも、それじゃ続けられないなと思いました。
なので、できるだけ友達感覚でフランクに、近い距離感で接客するようにしたんです。
そのほうが自分もラクだったし、お客さまにとっても話しやすくなるんじゃないかと思って。
そうすると新規のお客さまが繰り返し来店してくださるようになったり、既存のお客さまが相談してくれやすくなったりした実感もありました。
自分の好きなものが、お客さまとの繋がりに。
サロンワークで失敗した経験はありますか。
恥ずかしい話ですけど、失敗は何度もありますね。
デビュー当時は、自分のスキル不足でお客さまの髪をすごく傷ませてしまったこともありました。
そういうときに、何も言わずに別の美容室に行ってしまうお客さまもいるじゃないですか。
でもちゃんと言ってくださるお客さまもいて、そういう方のおかげで成長できたところはすごくありますね。
気分が落ちたときは、どうやって切り替えますか。
(多方面におよぶ高野さんの趣味)
僕、けっこう多趣味なんですよ。浅く広く、ですけど(笑)。
悶々としていた時期は、休みの日にモデルさんのヘアスタイル撮影をしていましたね。
ヘア雑誌に出たとき、みんなに「カッコいい」って言ってもらいたいから。
それが発散になっていました。
旅行も好きで、若いころは海外にも行っていました。
海外のひとって、すごく適当なんですよ。
たとえばバリでは、スーパーでレジ打ちをしているおばちゃんがみんな座りながらやっていたり、おつりが足りないと思っていたら飴をくれたり。「えっ、これおつり?」みたいな(笑)。
そういうフランクな感じで様になるっていうのは、気がラクでいいなと思いました。
それから、音楽はずっと好きです。
中学卒業くらいのころにハイスタンダードがすごく流行っていたので、パンクロックが好きですね。
広く浅くっていうのもいい意味で役に立ってはいて、お客さまと趣味が合うとすごく距離が縮まるんですよね。
美容師って、友達ほど親密ではないけれど、3ヶ月に1回必ず顔を合わせる存在じゃないですか。
趣味や価値観が合ったり、プライベートな話ができたりすると、すごくおもしろい仕事だなと思うんです。
音楽でも、お客さまに教えてもらって、聴いてみたら自分がすごくハマったっていうものもあります。
なので、海外の影響というほどではないかもしれないですけど、おたがいにラクな環境を作ったほうが、お客さまも相談しやすいかなと思っています。
お客さまによって、接客スタイルは変えますか。
お客さまによって切り替えるという感覚はありません。
うちの美容室は20代後半から30代のお客さまが多いので、近い距離感で話せる方が多いんです。
それよりもう少し上の年代のお客さまになると、普段より言葉遣いが丁寧になるっていうのはあるかもしれないですけどね。
でもそれは日常生活でも、年上の方には自然とそうなるものじゃないですか。
なので、意識的に変えているということではないです。
いい表情を引き出すために、どうやって思いを伝えるか。
(2017三都杯決勝大会においてデザイナーズ賞を受賞)
コンテストにも精力的に参加しているのでしょうか。
そうですね。
2016年、はじめて三都杯(関西で一番難易度が高いと言われているコンテスト)に出ました。
三都杯って、すごくスキルが必要なコンテストだと思っていて、怯んでいたんですよね。
デザイン性や技術力はもちろん、人間性まで見られるような気がしていて。
僕はそんなに自信がないから、と思ってずっと出ていませんでした。
でもお客さまに「扱いにくいところは全然ないけど、そろそろ3ヶ月経ったから来た」というようなことを言われることが増えてきたんです。
とくに前髪のカットについては、お客さまからいい評価を頂くことが多くなって。
「ちょっと自信を持ってもいいのかも」と思いはじめたころに、主催するガモウ関西の担当者さんから「出てみませんか」とお話を戴いて、出ることになりました。
受賞できるようなスキルを持った先輩がいるということも後輩にとってはいいことなのかなと思ったのもありますね。
でもいざ出てみると、自分ではかわいくできたと思ったのに、賞は頂けなかったんですよ。それがすごく悔しかったんですよね。
審査員の方からは直接よい評価をいただいて、それが救いではあって、このひとに褒めてもらえるものを作れただけで今年はオッケーだとは思ったんですけど。
そのときはモデルさんに、ここは切っちゃだめだとか、制限が多かったんです。
でも僕があからさまに悔しがるので(笑)、「来年は好きに切っていい」って言ってくださって、じゃあ来年また一緒に頑張ろうと話していて、再度チャレンジ。
2017年大会ではファイナリストに選ばれ決勝大会に出場し、デザイナーズ賞を頂くことができました。
クリエイションでの経験が、サロンワークに活きているという実感はありますか。
技術力が上がったのはもちろんあると思いますけど、コミュニケーションについてはすごく勉強になりました。
思いを伝えるということが、もともとすごく苦手なんです。
でもモデルさんとの距離感を大事にしないといい表情が出ないなとか、それはお客さまに対しても同じだと思うんですよね。
そういう気遣いや言葉選びは、クリエイションを経て変わったところもあると思います。
お客さまのスタイルに“似合わせた”髪型を探す。
(高野さんがデザインしたお客様のスタイル)
お客さまの魅力を上げていくために、心掛けていることはありますか。
技術面で細かいことを言いだすときりがないですけど、それよりもお客さまの気分をつかむことを大事にしていますね。
「この冬、どういう服を着たいと思っているのか」とか、「どういう女性になっていきたいか」とか、そういうところからイメージして似合わせていきます。
そのときの気分やファッションを見て、普段の生活スタイルに合った髪型にしてあげたいと思っています。
僕のお客様の場合、割とヘアスタイルを任せていただけるケースが多いんですよね。
なので顔を合わせて話していくうちに、「それなら今日はこうしてみようか」「気分を変えたいならこういうのもありだね」って、お客さまと一緒に決めていくことが多いです。
美容師に言われたことって、お客さまにとってすごく重要なんだなと感じていて。
過去の美容師さんとの経験から「わたしはこうだから絶対にこの髪型は似合わない」と思いこんで来られるお客さまもけっこういらっしゃいます。
でもその時からは流行も変わっているし、お客様自信の感性も表情も変わっているだろうから、今はぜんぜんありだと思うよって言うと、「じゃあやってみようかな」ってなることも多いです。
だから「あなたはこう」って決めつけるようなことは言わないようにしています。
お客さまに提案するための知識や情報は、どういうところから取り入れていますか。
雑誌を読んだり、街のひとを見たりしますね。
カフェにいるときや電車に乗っているときも人間観察をして、いろんなひとのファッションを見ます。
ファッションに興味がないようなひとも、すごくこだわっているんだなっていうひとも見て、流行を感じ取るようにしています。
多趣味なことが役に立つ場面もありますね。
「そういう音楽を聴くなら、この髪型絶対好きやろ」みたいな話もできますし。
いろんなところに常にアンテナを張るようにはしています。
べつにそれは苦じゃなくて、おもしろいと思ってやっていますね。
ここ一番のときに、選んでもらえる美容師に。
美容師としての今後の展望を教えてください。
具体的に「何年後にこうなる」っていうのは決めないようにしています。
「こうあるべき」とか「こうでなければいけない」とか、あんまり決めすぎるとよくないような気がしていて。
美容師はずっと続けていくつもりなので、時代の流れを見ながらやっていきたいですね。
個人的な目標としては、お客様と長いおつきあいができたら、と思っています
美容師は、人生の節目に立ち会える仕事ですよね。
なので成人式とか結婚式とか、そういう節目のときに、選んでいただけたらうれしいなと思っていて。
そういう大事な場面で、「綺麗にしてもらうならあのひとだ」って言ってもらえるような美容師になりたいです。
普段からいろんなものを見聞きして、感じ取っている高野さんには、「おもしろいこと」を見つけてくる才能がずば抜けている印象を受けました。
「こんなことを言って、恥ずかしいやつだと思われないかな……」と思って言わないでおくような要望でも、高野さんになら自然に、いつの間にか話せてしまいそうです。
そして高野さんはその要望を、わたしが考えていたよりもずっと満足のいくかたちで叶えてくれるでしょう。
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