- 美容師インタビュー | 2019.03.01
【京都 西向日エリアの美容室 ヘアラズリ】美容師の仕事で極める「芸術の道」 五十川リエさん
【この記事は京都造形芸術大学 文芸表現学科のみなさんとともに制作・発信しています】
みなさんこんにちは。
京都造形芸術大学の上原子と大迫です。
今回は京都市西向日にあるサロン、Hair LazuLiの五十川(いかがわ)リエさんをご紹介します。
技術とデザインを競うコンテストで数多く入賞し、美容師として20年の実績があります。
五十川さんはどんな思いや目標を持って、美容師の仕事に向き合ってきたのかうかがいました。
※撮影は大阪堀江のヘアサロン ヨハコをお借りしています。
もっとサロンワークがしたい
サロンワークで大切にしていることを教えてください。
サロンワークではどうしたらお客さまが喜んでくれるのかを一番に考えています。
私はよくしゃべる方なんですけど、自分から「こういうデザインがいいですよ」とは言わないですね。
どんな感じにしたいのかとか、好きなこととか、いろんなことをお聞きしてデザインを提案します。
高い技術としゃべりやすい雰囲気
五十川さんのお客さまはどんな方が多いですか?
お客さまは10年以上通ってくれている方が多いですね。
一人一人の好みやライフスタイルも知っています。
半分、友達みたいな感覚で「今日は、どうします?」って聞いて、そのときの気分を話してもらえれば、喜んでもらえるデザインがわかります。
新規の方にはもっとお話をうかがいますし、私の美容師としての考えも交えてしっかり提案するようにしています。
お客さまは五十川さんのどんな部分を気に入って10年以上も通ってくれていると思いますか?
まずは技術だと思います。
当たり前のことですが、お客さまの要望に応えられる技術がないと喜んでいただけません。
他には「五十川さんはしゃべりやすい」ということもよく言われます。
私はいつも自然体なので、よそ行きの真面目な感じをつくらない、というよりつくれないんです(笑)
だからしゃべりやすいと感じてもらえるのかもしれません。
でも長く通ってくれているお客さまも、同じようなヘアスタイルばかりでは飽きてしまうと思います。
時代遅れのデザインしか提案できない美容師にはなりたくないですね。
だからダサい美容師になになりたくないという理由もあって、毎年ヘアスタイルの創造力を競うコンテストに挑戦し続けています。
芸術の道から美容師に
▲五十川さんがデザインしたフォト作品。背景に書道家である五十川さんの叔母さんの書を使用
数多くのコンテストに出場していらっしゃるんですね。
そうですね。
サロンワークはサロンワークで楽しさがあるんですが、私は自分がデザインしたヘアスタイルをつくるのも好きなんです。
だからコンテストに出て、好きなデザインのヘアスタイルをつくっているんです。
実は私は、美容師になる前は芸術の道に進みたかったんです。
でも芸術って将来食べていくことを考えると難しいなと。
それで美容師の道に進んだんですが、自分の手でヘアスタイルをつくるというのは、もともと好きだった立体造形に似ているんですね。
だからハマったし、20年も続けてこられたんです。
美容師になったころのことを教えてください。
美容師として初めて働いたのは京都のYAYOI~BRAINSです。
ここを選んだのは、いくつも店舗がある大手のサロンで修行して、技術を身に着けたかったからです。
でも「3年も続けられるだろうか」とも思っていました。
はじめは芸術のほうに進みたかったわけですから、意欲が続くかどうか心配でした。
それが実際に働くようになると、どんどん課題が出てきました。
もっとお客さまに喜んでもらうにはどうすればいいかとか、コンテストで賞を取るには何が必要かとか、目の前の課題に取り組んでいました。
それで気が付いたらずっと続けていたという感じですね。
コンテストに出場するようになったのは、はじめて働いたサロンの影響ですか?
そうですね。
特に「わあっ!」て思った人は、YAYOI~BRAINSの先輩の清水光さん(現 Licht KYOTO オーナースタイリスト)です。
私が入社した年に、清水さんが三都杯(全国でも有数の難易度をほこる、美容師の技術とセンスを競うコンテスト)の決勝の舞台に立っていたんですね。
そのときに、「かっこいいな。私もこんな舞台に立てる美容師になりたいな」って思ったのがきっかけで、コンテストに挑戦するようになりました。
あのサロンで働いていなかったら、目標とする先輩にも出会うことなく、コンテストっていう世界があるのも知らなかったかもしれません。
ぶつかった壁の先にあるものを見てみたい
コンテストに出場し続けるモチベーションはどこからくるのでしょうか?
優勝するまで出場し続けようって決めたんです。
はじめは何年か続ければ優勝できると思っていたんですよ。
予選で負けることはないので、すぐに優勝にたどり着けると思っていました。
だけど2位とか3位になって入賞はできるんですが、まだ優勝できていないんです。
そして30歳の手前くらいで、母親から「あんた、コンテストにいつまで出るの?」って聞かれたんです。
私はつい「優勝するまで出る」って答えてから、「もう言ってしまったし、優勝するまで出続けよう」と決めました。
コンテストに出場し続けて気が付いたことはありますか?
30代になって、三都杯の決勝で圧倒的に負けたと思ったことがありました。
「これ以上やっても策がないし、もう勝てへん」って、すごく落ち込みましたね。
でもそのとき「あ、一緒なんや」と思いました。
芸術の道をあきらめたあのころと同じ感覚がよみがえってきたんです。
芸術の世界でやっていけないと思ったのも、圧倒的にすごい芸術作品を見たからです。
結局、こうなりたいという目標があると、同じ壁にぶつかるんですよ。
それは美容師でも一緒なんです。
今は逃げても無駄だと思って突き進み続けている感じです。
その壁の先に何かがあるとしたら見てみたいですね。
美容師は天職
コンテストに取り組むことが、サロンワークでお客様に喜んでもらうことにつながっていると思いますか?
全部つながっていると思います。
コンテストはひとつのヘアスタイルに対して何か月もかけて、数ミリの小さな差まで深く考えるんです。
このプロセスが、普段お客さまに対していいパフォーマンスするための力になっています。
お客さまのご要望をお聞きして、何が似合うかパっと考えて、いいデザインに落とし込むのにすごく役立っていますね。
それに三都杯の決勝戦のステージに立つと、たった15分で作品をつくらないといけないんです。
お客さまがセットに来られたときにも、もっと自分の手が早く動いたらいいのにと思います。
コンテストに出てスピードが鍛えられると、サロンワークでも生きますね。
サロンワークで一番喜びを感じるのはどんなときですか?
やっぱりお客さまが「よかった」と言ってくれたときですね。
どんなしんどいときでもそういう声を聞くと、「お客さまに支えられている」と感じます。
本当に元気をもらっていますね。
芸術の道をあきらめて美容師になったんですが、この仕事もものづくりという意味では根本は同じなんですね。
私は自分の手で何かをつくることが好きなんです。
ヘアスタイルをつくって誰かに喜んでもらえる美容師の仕事は天職だと思います。
今はもっとサロンワークをしたいですね。
特にお客さまに喜んでもらえたと感じた経験を教えてください。
▲施設に出向いて100歳になるお客さまの髪を切る五十川さん
もうすぐ100歳になるお客さまがいます。
その方は私が美容師になってすぐ髪を切るようになったので、もう19年ぐらい切らせてもらっています。
今は施設に入っているんですが、そこで髪を切られたら嫌だったみたいで……。
周りの方から「やっぱり五十川さんじゃないとだめみたいです」と言っていただいて、サロンが休みの日に私が施設に行って髪を切るようになりました。
ボランティアでも何でもなくて、お仕事として切らせてもらっています。
髪を切っているあいだ、おばあちゃんはずっと手を合わせて「ありがとう。ありがとう」って言ってくれます。
口癖が「ありがとう」なんて、「めっちゃおしゃれやん」って思います。
私もそんな人になりたいですね。
今後の目標を教えてください。
三都杯で優勝することも目標ですが、数年後には自分の店を持つことも計画しています。
どちらも達成できるように必要な課題をひとつずつクリアしているところです。
とはいえ日々のサロンワークも大切です。
これからもお客さまに感謝の気持ちを持ちながら、サロンワークに励んでいきます。
かつて目指していた道とは異なる美容師の道に進んだ五十川さん。
それでもサロンワークやコンテストに面白さを見つけて精一杯取り組んだからこそ、多くのリピーターを抱える人気の美容師さんになったと感じます。
いくつもの壁にぶつかってきたそうですが、その苦労を感じさせない明るい人柄も魅力的でした。
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